自治体職員のためのRESAS活用術:地域データ分析から施策立案、効果測定まで
地域活性化に取り組む自治体職員の皆様にとって、データは事業を成功に導くための羅針盤となる重要な要素です。しかし、「どこからデータを探せば良いのか」「どのように分析すれば良いのか」「事業の効果をどう測定すれば良いのか」といった疑問や課題をお持ちの方も少なくないでしょう。
この記事では、地域活性化に役立つ強力なデータツールである「RESAS(地域経済分析システム)」に焦点を当て、その基本的な使い方から、地域課題の発見、効果的な施策立案、そして事業の効果測定まで、自治体職員の皆様が実務で活用できる具体的なヒントを解説します。RESASを使いこなすことで、データに基づいた客観的な意思決定や、説得力のある対外説明資料の作成に繋がるはずです。
RESAS(地域経済分析システム)とは?自治体職員が知るべき基本
RESAS(リーサス:Regional Economy Society Analyzing System)は、内閣府と経済産業省が提供する、地域の産業構造や人口動態、観光動向など、様々なビッグデータをわかりやすく可視化したシステムです。インターネット環境があれば誰でも無料で利用でき、専門的な統計知識がなくても直感的に操作できる点が大きな特徴です。
RESASでどんなデータが見られるのか
RESASでは、主に以下の5つのカテゴリに分類された多様なデータを提供しています。
- 人口: 人口構造、人口移動、将来人口推計など
- 産業: 産業構造、企業活動、特許、農業、漁業など
- 観光: 観光客数、消費額、宿泊施設、イベントなど
- まちづくり: 居住環境、交通インフラ、土地利用など
- 雇用・医療・介護: 労働力人口、求人倍率、医療機関、介護施設など
これらのデータは、地図やグラフ、時系列データとして視覚的に表現されており、地域の現状を多角的に把握するのに役立ちます。例えば、特定の地域の人口がどのように変化しているか、主力産業の衰退傾向はないか、どの地域から観光客が来ているか、といった情報を手軽に確認できます。
RESASの基本的な操作方法
RESASはウェブブラウザからアクセスし、メニューから見たい指標を選択するだけで簡単にデータを表示できます。
- 見たい指標を選択: メニューバーから「人口」「産業」などのカテゴリを選び、さらに詳細な指標(例:「人口構成」「産業構造マップ」)を選択します。
- 地域を選択: 都道府県、市区町村を指定します。複数の地域を比較することも可能です。
- 表示形式を調整: グラフの種類(棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフなど)、表示期間、年齢層などを細かく設定できます。
- データのダウンロード: 表示されているグラフや表のデータは、Excelなどの形式でダウンロードできます。これにより、独自の分析や資料作成に活用することが可能です。
RESASデータを使った地域課題の発見と深掘り
地域活性化の第一歩は、その地域の「真の課題」を正確に把握することです。RESASは、この課題発見のプロセスにおいて非常に強力なツールとなります。
「なんとなくの課題」を「データで裏付けられた課題」へ
多くの自治体では、「人口減少」「高齢化」「若者の流出」といった漠然とした課題感が共有されています。しかし、RESASを使うことで、これらの課題を具体的なデータで裏付け、その要因を深掘りすることが可能になります。
事例:人口減少の要因分析
例えば、「人口が減少している」という課題があったとします。RESASの「人口構造」や「人口移動」のデータを見ることで、以下の点を具体的に把握できます。
- どの年齢層の人口が減少しているのか: 若年層(15~29歳)の流出が多いのか、それとも高齢者の死亡数増加によるものなのか。
- どこからの転出が多いのか、どこからの転入が少ないのか: 近隣の大都市圏への流出が多いのか、他県からの転入が少ないのか。
- 出生数はどのように変化しているか: 合計特殊出生率の推移を見ることで、将来的な人口動態の予測にも役立ちます。
これらの情報を組み合わせることで、「単に人口が減っている」ではなく、「20代の女性が隣接する大都市へ進学・就職で転出し、それが少子化にも影響を与えている」といった、より具体的な課題像を明確にできるのです。
複数のデータ層を重ねて分析する視点
RESASの真価は、異なるカテゴリのデータを組み合わせて分析することで発揮されます。
事例:観光客数の伸び悩みと地域産業の関連性
「観光客数が伸び悩んでいる」という課題がある場合、
- 「観光」データ: 観光客数、宿泊客数、消費額の推移を確認します。どこからの観光客が多いのか、宿泊を伴う滞在が少ないのか、といった傾向を把握します。
- 「産業」データ: 地元の主要産業や特産品を確認します。観光客が訪れる魅力となる資源が十分にあるか、あるいは地域内で消費される商品やサービスが不足していないかを探ります。
- 「人口」データ: 若年層の人口減少や高齢化が進んでいる場合、観光産業を支える人材不足という課題が隠れている可能性もあります。
このように複数のデータを重ねて分析することで、観光客数の伸び悩みが単にPR不足だけでなく、地域産業の活力低下や、観光客を誘致・受け入れる体制の不備といった複合的な要因によるものである可能性が見えてきます。
RESASデータを活用した施策立案のポイント
地域課題が明確になったら、次はそれを解決するための具体的な施策を立案します。RESASデータは、施策の方向性を定め、ターゲットを絞り込む上でも役立ちます。
データに基づいたターゲット設定と施策の仮説構築
RESASで特定した具体的な課題と、それに関連するデータに基づいて、施策のターゲットと方向性を定めます。
事例:若年層流出対策
RESAS分析で「20代前半の若者の転出超過が著しい」という課題が見つかったとします。この場合、施策のターゲットは明確に「若年層」となり、以下の仮説に基づいた施策を検討できます。
- 仮説1(雇用): 地域に魅力的な仕事がないため転出している → Uターン・Iターン促進のための地域企業と若者をつなぐマッチングイベントの開催、創業支援策の強化
- 仮説2(住居・生活環境): 若者が住みやすい・生活しやすい環境が不足している → 若者向け住宅補助制度の創設、地域活動への参加促進
これらの施策を立案する際には、「この施策が成功すれば、RESASのどの指標(例:20代の転入超過数、地域での新規創業数)がどのように変化するはずか」という仮説を立てることが重要です。これにより、後述する効果測定の準備も同時に行えます。
成功事例から学ぶデータの活用(架空事例)
とあるA市では、RESASの「産業構造マップ」で、主要産業である製造業の雇用者数が減少傾向にあることを把握しました。詳細なデータ分析の結果、特に特定の分野(例:精密機械部品)での新規企業立地が少なく、既存企業の事業承継も滞っていることが判明しました。
そこでA市は、このデータに基づき、「精密機械部品産業に特化した企業誘致のための優遇制度」と「既存中小企業の事業承継支援プログラム」を策定。さらに、「若者の地域内就職支援」を目的とした地元工業高校と連携したインターンシップ制度を設けました。
これらの施策の結果、数年後にはRESASの「産業・企業活動」データにおいて、精密機械部品分野での新規事業所数の増加と雇用者数の増加が確認され、若者の地域内就職率も改善傾向を示しました。この事例では、漠然とした「産業衰退」ではなく、RESASデータが示した「特定の分野の課題」に焦点を当てたことで、効果的な施策に繋がったと言えるでしょう。
RESASを活用した効果測定の考え方
事業を実施した後の効果測定は、その事業が意図した成果を出せたのか、改善点はないかを評価し、次の施策に繋げるために不可欠です。RESASは、効果測定の具体的な指標(KPI)設定と、そのモニタリングに役立ちます。
効果測定指標(KPI)の設定とRESASデータの紐付け
KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)とは、目標達成度を測るための具体的な指標です。施策立案の段階で立てた仮説と連動させ、RESASで追跡可能な指標をKPIとして設定します。
事例:観光客誘致施策のKPI設定
「地域のブランド力を高め、交流人口を増やす」という目標の観光客誘致施策を考えます。この施策のKPIとしてRESASで追跡できるものには、以下のようなものが挙げられます。
- 観光客数(宿泊、日帰り): RESASの「観光」カテゴリで確認できます。施策実施前後で、どれくらいの観光客が増えたかを比較します。
- 観光消費額: RESASの「観光」カテゴリで、地域全体の観光消費額の推移を見ます。
- 宿泊施設の稼働率: RESASの「観光」カテゴリで、宿泊施設のデータから推定することも可能です。
- 流入元地域: RESASで、どの都道府県からの観光客が増えたかを確認し、特定のターゲット層への効果を測定します。
これらのKPIを設定する際は、目標値(例:〇年後までに観光客数を〇%増加させる)も合わせて設定することが重要です。
測定期間と分析の継続性
効果測定は、一度行えば終わりではありません。短期的な変化だけでなく、中長期的なトレンドを捉えるために、継続的にデータをモニタリングすることが重要です。RESASは定期的にデータが更新されるため、時系列での変化を追跡するのに適しています。
例えば、施策実施から半年後、1年後、3年後といった形で定期的にRESASのデータをチェックし、KPIの達成状況を評価します。もし期待した効果が見られない場合は、データに基づいて施策の見直しや改善策を検討します。
RESASだけでは測れない部分の補完
RESASは非常に多様なデータを提供しますが、住民の満足度、事業参加者の具体的な声、地域の雰囲気といった、数値化しにくい定性的な情報は捉えきれません。これらの情報は、住民アンケート、ヒアリング調査、ワークショップなどを別途実施することで補完する必要があります。RESASで全体像を把握し、不足する情報を補完的な調査で深掘りするというアプローチが効果的です。
まとめ:データに基づく地域活性化の第一歩を踏み出す
この記事では、RESAS(地域経済分析システム)を活用した地域活性化のためのデータ分析、施策立案、効果測定の具体的な方法について解説しました。
RESASは、自治体職員の皆様が直面する「データの見つけ方」「専門知識の不足」「効果測定の難しさ」といった課題を克服し、データに基づいた根拠ある意思決定を支援する強力なツールです。
データ活用は、特別な専門家だけが行うものではありません。RESASのような使いやすいツールを積極的に活用することで、日々の業務の中でデータドリブンな視点を取り入れ、より効果的で持続可能な地域活性化事業へと繋げることが可能です。
まずはRESASにアクセスし、ご自身の担当地域や関心のある分野のデータを触ってみることから始めてみてはいかがでしょうか。そこから見えてくる新たな発見が、地域活性化への大きな一歩となることでしょう。